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ばれんたいん(ミニバサ)

ゼロさんからいただいてた(去年)
バレンタインせとうちSSです。

明日は続きのほわいとでーせとうちをアップします。
110214.jpg


【 歪んだチョコの物語 】(注/ミニBASARAネタです)

 

 長曾我部元親は、毛利元就の居城の上空に妙な暗雲が立ち込めていることに気付いて、
思わず足を止めた。
「なんだ? あいつ、また粥でも作ってんのか?」
 呟く元親の眉間には皺が刻まれている。
 彼が風邪で寝込んだ時、たまたま(?)城に来た元就が作った『日輪粥』の七色の輝きと
破壊的な味は記憶に新しい。
 元親は、己の右手にある「戦国婆娑羅合戦記録」の記録映像と元就の城とを複雑な表情で見比べる。
 そうして暫くその場に立ち尽くし、難しい顔で溜息を落として、けれど彼は結局、
その足を元就の城へと向けたのだった――

「これで完璧。我の策に抜かりはない」
 城の上空に暗雲を招いた本人・毛利元就その人は、文机の上に置いた螺鈿細工の箱を
満足気な表情で眺めていた。
「あとは風魔を……」
 そこまで呟いた瞬間、部屋の障子が勢いよく開かれる。
「よう毛利!」
 無礼な訪問者の声に、元就は振り向きざま、文机ごと螺鈿細工の箱を背後に隠した。
「ち、長曾我部?!」
「ん? ……なんだ?」
 元就の反応に、元親が怪訝そうな顔をして室内に踏み入る。
「……何用ぞ」
 不機嫌に言い返して、元就は文机ごと、元親が近付いた分だけ後ろに下がった。
 それに気付いた元親は、更に一歩、足を進める。
「あんた、今、なんか隠したろ」
「別に、何も隠しては居らぬ」
「いいや隠した」
 元就は両手を後ろに回したまま再度後退しようとするが、文机は動かない。
 肩越しにちらりと視線を向ければ、机は壁に行き当たって、もう下がりようが無かった。
「(!……計算してないぞ……)」
 視線を前方に戻せば、隻眼に疑惑の色を浮かべた元親がずいと詰め寄って来る。
「ひょっとして、あんた、また1人で提案書でも書いてたんじゃねえのか?」
 そう言って、元親は移動出来なくなった元就の背後を覗きこもうと伸び上がった。
「隠して無いと申すに!」
「なんでもねぇってんなら、そこ退いてみろよ?」
 元親の言葉に、彼の視界から背後を隠すように動いていた元就の動きが止まる。
「ほら、退けって」
 元就は暫く沈黙し、それから能面のような笑顔を作ると、そろりとした動きで文机の前から移動した。
 遮るものの無くなった元親の視界の先、机の上には硯が一つ。
「……」
「何もないであろう?」
 硯しか置かれていない文机を眺める元親の耳に、勝ち誇ったような元就の声が響いた。
「そっ……?!」
 そんな筈は無いと言い返そうとした元親は、元就の背中が不自然にふくらんでいることに
気付いて言葉を呑む。
 元就は未だ能面のような笑顔のまま立っている。
「(……しらを切り通すつもりか。随分と大事なもんみてぇだが)」
 元親が元就の四角く膨れた背中を指摘するか否か迷っていると、
微妙な沈黙に耐えかねたのか、珍しく元就が会話を切りだした。
「それで、今日は一体何の用なのだ」
「お、おう。こいつを届けに来たんだ」
 元親が合戦記録映像を取り出すと、元就はどこかぎくしゃくした動きで右手を動かし、文机を示した。
「ならば、そこに置いて早々に帰るが良い」
 言い切った元就の背中で、支えの半分を失った箱がずるりと下がる。
 素早く右手を後ろに戻し、箱の落下を防ぐと、彼は立ち尽くして居る元親へと視線を戻した。
「…………」
「何ぞまだ用があるのか」
 物言いたげな元親に、素っ気ない声を投げる。
「別に。じゃあな」
 やけにあっさり引き下がった元親が、部屋から去って行くのを見て、
元就は背に隠していた螺鈿細工の箱を両手で支えながらゆっくりと下ろした。
 そうして肩の力を抜いた時。
「おらよ!」
 掛け声とともに、鎖の伸びる音が響いて、碇槍の先が元就の掌から螺鈿細工の箱を取り上げた。
「……なっ?!」
 掌の上の喪失感に、元就は反射的に背後に視線を向ける。
 当然ながら、床の上にも箱は無い。
 視線を縁側に戻せば、螺鈿細工の箱を手にした元親が室内に戻ってくるところだった。
「いいもん持ってんじゃねえか」
「長曾我部、貴様……っ!」
「こいつは『ばれんたいんちょこ』って奴だろ?」
「!」
 怒鳴りつけようとした元就は、あまりの展開に声を失う。元親は興味津津だ。
「何処の国から貰ったんだよ、え?」
「……国? ……貴様、ばれんたいんがどういう行事か知って居るのか」
「ちょこれーと1つで同盟を持ちかけることが出来る、お手軽外交記念日のことだろ」
「……ふっ」
 元親の言葉に、元就は思わず見下すような笑いを零した。
「な、なんだよ」
「いかにも俗な発想よ。所詮、このように高尚な行事は、
海賊ごときに理解出来るものではないと言うことだ」
 馬鹿にしたような物言いに、元親が不服そうに眉を寄せる。
「じゃあ、あんたはどういう行事か知ってんのか」
「知っていたとしても、貴様に教える義理はない」
 元就はそっぽを向いたまま、歯牙にもかけない。
「そうかい。そういうこと言ってっと、このチョコ、貰っちまうぜ?」
 器用にも掌の上で螺鈿細工の箱をくるくると回して元親が言うと、
元就は一瞬だけ箱に視線を向けた。
「そのようなもの、欲しいと言うなら、貴様にくれてやろう」
「おいおい、貰いもんなんだろ?」
 驚いた元親が慌てて箱を返そうとするが、元就は受け取る素振りも見せない。
「さて。毒でも盛られて居るやもしれぬしな」
「毒って……」
 あまりの物言いに、元親が鼻白む。
 その様子を確認した元就は、片手を振って部屋の外を示した。
「鬼であれば、毒など関係無かろう。それを持って早々に立ち去るが良い」

 船に戻った元親は、螺鈿細工の箱を前に、腕を組んで思案する。
「毛利の奴、なんっか機嫌悪かったなあ」
 あんまり必死に隠すから、悪戯心で奪い取ったものの、綺麗な細工の箱は一級品だ。
 しかも中身は『ばれんたいんちょこ』らしい。
 なんだか悪者になったような気がして、元親は慌てて頭を振る。
「毛利がいいって言ったんだから、いいんだよな。とりあえず、開けてみっか」
 埋められた貝の細かな煌めきに傷をつけないよう注意しながら蓋を開けると、
一通の文が入っていた。
「文までついてやがる。なになに、長曾我部元親殿……ん?」
 元親は、元就宛の箱の中に、自分宛ての文が入っていたことに首を傾げる。
『長曾我部元親殿。常日頃の小まめな働きに感謝の意を表して。
安芸国領主・日輪の申し子毛利元就』
 文を読み終えた元親は、茫然とした様子で箱の中のちょこれーとを見下ろした。
「…………俺宛て?」
 ちょっと歪んだハートの形のちょこれーとに、元就の不器用な行動を垣間見た気がして、
思わずどきっとしてしまう元親なのだった。

<おしまい>


 

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